上場記念品。その名刺入れに込めた想い

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上場記念品


一人の女性から、200個余り上場記念品製作のご依頼がありました。アイテムは名刺入れ。コーポレートカラーであるブルー系の革色。刻印は社名ロゴ、記念名、記念日。納期は○月○日まで、とのご希望。そして「個人でお支払いをすることは可能ですか?」とのご相談をお受けしました。稀に総務や役員室の方で、個人のカード等で一旦立替えられ、後に会社に請求されるというケースがありますが、そうではありませんでした。

上場を約一ヶ月後に控えるその会社の創業者の奥様でした。10年ほど一緒に社内業務をされていらっしゃったこと、創業者であるご主人が急逝され、上場の目標が一時止まりそうだったが、社員やお取引会社の皆様のご協力により目標を達成できることになったことをお教えいただきました。創業者(ご主人)の夢を叶えていただいた社員の皆様に心ばかりお礼の品として、創業家より名刺入れを贈答されたいとのことで、「皆様に気持ちが伝わる素敵な名刺入れを何卒よろしくお願いいたします。」というメッセージをいただいたのでした。


納品までのスケジュールは非常にタイトでした。しかし私たちはこの想いに応えるべき、最大限の努力をさせていただこうと一丸となりました。上場日には、なんとしても間に合わせたい。ブルーという革色、ロゴマークの複雑さ、製品に銀箔押し、という時間と手間を要する条件が揃う中、果たして間に合うかどうか、製作サイドは納期との闘いに挑みます。

素材となる革の入荷を急ぎ、生産体制を万全に整えます。刻印デザイン案の作成にも時間を要しました。社名とロゴマーク、上場記念という文字と指定された日付とのバランス。何度もやりとりを行い、念を入れて確認をさせていただきました。そしてようやく刻印デザインが決まり、原版製作へと進もうとした矢先のことでした。


「上場の日にちが変更になる可能性が出ましたので作業を一旦保留にして貰えますでしょうか」とのご連絡。想定していない申し出に、製造部は驚きとショックを隠せません。

日付入りの原版製作は急遽ストップ。しかし、名刺入れそのものの生産体制はすべて組み込まれてしまっており、その一ヶ月を止めることは出来ませんでした。

そこで私たちは二つのご提案をさせていただきました。1.一旦無地のまま納品させていただく。日付が決まった時点で原版を製作し、無地の製品をお送りいただき製品に刻印し再納品する方法。(こちらは熟練の箔押し職人にしかできない非常に難易度の高い技術を要する方法です)。2.日付は刻印せず、社名ロゴだけを刻印する方法。・・・結果、お客様は1.をお選びになりました。あとで製品に日付の入った刻印を行う方法です。

上場日がいつに変更になるのか、一週間先なのか一ヶ月後か二ヶ月後なのか、そればかりは社外秘。私たちには分かりません。ただご連絡を待つのみでした。何より上場される企業にとって、記念品に刻印する「日付」がいかに大切で、価値の高いものかを知る機会となりました。


その後、約三ヶ月の時を経て無事上場。社名、ロゴマーク、記念の文字、そして間違いなくその日付が刻まれた名刺入れが完成いたしました。鮮やかなブルーの本革に美しい銀箔押しの刻印が、ひときわ輝いて見えました。品物に添えるメッセージカードには創業者のお名前も。こうして私たちは作り手としての気持ちを込めた素敵な名刺入れをお届けすることができたのでした。

上場への道のり。そこには様々な闘いがあり、市場では知られることのない数々の真実の物語があることでしょう。人の命は限りがあり誰もがいつか尽きるものですが、夢や理念は生き続けます。生き続け、受け継がれ、未来へと歩み続ける。

そんな素晴らしい企業たちのハレの上場をお祝いする記念品。その製作の小さな舞台裏にも様々なドラマがあります。そして「上場おめでとうございます」と心から祝福の意を込めて、一つ一つ製品を世に送り出していける喜びをかみしめています。



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