創立50周年記念、今は亡き創業社長の思い出

column

まぶしい夏の日に。もみじマークの白いレクサス


2010年、暑い夏のある日の午後、こんな電話がありました。「もしもし。今ね、御宅の会社の事務所のあるビルの下まで来たんだけど、記念品のサンプル見せてもらえる?」と、年配の男性らしき人からの電話。グラネスでは基本的に、アポイントなしでの突然のご来社はお断りをしています。丁重にその旨を電話でご説明いたしましたが、その方は「せっかく遠い所から運転して来たんだ。」と、かなりお怒り気味。

年配の方が、遠いところから運転してお越し頂いてるとわかれば、さすがにここで帰っていただくのは申し訳ないと思い、「わかりました。すぐご用意できるサンプルは限られておりますが、ご覧いただくことは出来ますので、しばらくお待ちいただけますか。」と対応しました。

まずはお迎えするために車の色をお伺いし、約10分後、その車に向かうと・・・。


白のレクサスに貼り付けた、もみじマークが目を引き、なんとも絶妙でした。ドアを開け「いや〜、突然申し訳ないね〜」と笑顔。さきほどの電話での剣幕ぶりとは打って変わって、なんともいえない穏やかな表情で迎えて下さいました。瞬間に、この方は絶対「社長」だと思いました。

駐車場をご案内し、打ち合わせロビーでの初めてのご面談。名刺交換から始まります。そう、やはり社長さんでした。会社の創立記念に、高級な記念品をお作りになりたいということで、社長自らが足を運んできて下さいました。

遠いところから・・・といっても、実は新宿区から、ここ港区までということが判明。しかし暑い最中の運転、社長さんにとっては「遠い所」だっだに違いありません。いえ、今思うとあれは、追い返されない?ための、社長の無意識の戦略だったのかもしれませんね。


まずは、年齢の話から始まります。「いくつに見えるかね〜」と社長。こちらは内心(75歳くらいかな。いやここは少し若く言っておかなくては)ということで、「70歳くらいでいらっしゃいますか?」と申し上げると、「いやいや、もっと上〜。」「え〜、お若く見えますよね〜」「そうかね(ニヤリ)。ホントはね、もう引退しなきゃいけない歳でね。今年で引退だよ。」と、ほのぼのとした会話。

結局、社長さんは81歳(当時)ということがわかり、会社の創業者でいらっしゃいました。2002年には勲章も授与されています。昭和の時代を駆け抜け、平成を生き抜いてきた、独特の社長らしいオーラがとても印象的です。9月に創立50周年を迎えられ、社員、お取引先のお客様、そして長い間お世話になった方たちに、記念品を贈呈したいというお話。

グラネス自慢の本革ウォッチトレーや、名刺入れなどのサンプルを手に取ってご覧いただきながら、製品や素材の説明をさせて頂きました。


まず、ウォッチトレーはお気に召したようで、「これは100個でいくら? 300個では?」と、お値段についての話になってきました。「もしご予算的に難しい場合は、ピッグスエードを使ってお作りすれば、単価を下げることが出来ます」と申し上げると、「いや〜、安くても豚は要らんよ笑」。と社長。

通常、商談の中では価格交渉に入る時が最も緊張感漂う時なのですが、ピッグスエードをブタとおっしゃった社長のひとことに、ついウケてしまい、なごやかに話が進みます。「たしかに、お肉も豚より牛の方が高級ですよね。」などなど・・・

結局、アイテムは社員の方と相談して最終決定したいということで、サンプルを一日お貸出しすることに。「明日必ず、お返しに持ってくるからね〜」と笑顔で帰られ、翌日のお返事を待つことになりました。


さて翌日。灼熱の太陽が照りつける午後、この日は車をビルの正面につけて頂き、お迎えをいたしました。白いレクサスがまぶしく目を惹きます。

「ずいぶん、迷ってしまってね〜」と、サンプルの入った袋を提げながら、社長さんの登場です。

「このウォッチトレーは決まり。 あとね、わたしは、このトラベルケースがいいと言ったら、みんなに反対されちゃってね〜。みんな(男性社員)は、名刺入れがいいって言うし、女子(女性社員)は、事務職で外に出ないから、名刺入れは要らない、ペンケースがいいって言うし・・・。」などと楽しそうに悩まれながら、結果的にはお客様用にウォッチトレー、社員用に名刺入れペンケース、そして社長ご自身の独断でトラベルケースもお作りになることが決定しました。

それぞれアイテムに刻印するロゴデータや刻印イメージについては、後日担当の方とやり取りをすることになりました。


その後のことです。なぜか自然に創業時のお話や、これまでのことを断片的に聞かせて下さいました。昭和35年9月の創業から半世紀。社長の「苦労してね・・・・」のひと言の重みに、感無量の思いがこみ上げてきました。

最近仕事をしていると周囲はみんな年下。この人は一回り下?この人は二回り下? という状況が日常茶飯事です。そんな私でも、この社長の前では完璧な若輩者。ただただ頭が下がります。さりげない言葉が、勉強になり、心に刻まれていくのです。そして、さらにさりげなく、あたたかく、「まだまだお若い。頑張ってね」と私に仰ってくださいました。

お帰りになる前、社長は椅子から立ち上がり、突然ウォッチトレーのサンプルの箱を高く持ち上げました。そして深々とお辞儀をし、お客様に記念品を差し上げる時の身ぶりをしてくださったのです。「受けた恩は石に刻み、かけた情けは水に流す。 お世話になった方々に、あの時はありがとうございました、と、こうやって(記念品を)献上するからね」と。

50年という歳月の重みと、創業者の深い想い。たかが記念品、されど記念品。この小さなトレーや名刺入れに、50 年間の汗や苦悩、喜びや涙、目に見えないかけがえのない一つ一つが込められているのだと感じました。

記念品という仕事に携わっていることへの、感謝と誇りと責任を感じさせてくれた瞬間でした。


私は車が見えなくなるまでお見送りいたしました。まぶしい夏の光を浴びて去っていく車の後ろ姿。

出会いから二度目にして、それが最後となりました。

あの日からちょうど9年後、2019年の夏、創業社長が他界されたことを知りました。創立60周年を迎える1年前でした。

あの日、もみじマークの白いレクサスから現れた社長の笑顔。そして最後に残していかれた、あのお姿とお言葉は、グラネス記念品の原点として、本質として今もなお心の中に生き続けています。

「受けた恩は石に刻み、かけた情けは水に流す。 お世話になった方々に、あの時はありがとうございました、と、こうやって献上するからね」

Message  by  SAYUMI ITO